A sense of Rita Dialogue with TAKESHI KOBAYASHI

vol.06 江守 正多 さん

小林武史が各界のゲストを招いてさまざまなテーマで語り合う対談連載。
今回のゲストはap bank fesでも何度もご登場いただいている気象学者の江守正多さん。
コロナ禍での環境状況などリアルな「いま現在」を語っていただきました。

温暖化懐疑論者には三通りあるその一つは"あまのじゃく"

小林:まず江守さんは、僕たちがap bankをつくった頃に環境問題を科学的に教えてくれた方です。ただ、地球温暖化というものがどういうものか、すでに懐疑的な意見があって。それに対して江守さんは、「これは起こっているんだから」というような一方的な話じゃなくて、懐疑的な人の視点にもなり、それを懐柔するような視点を持っておられました。
僕がすごく覚えているのは、「温暖化を起こしている理由に他の可能性があるかもしれない」けれども、現状、僕らが出している「温室効果ガスが原因で温暖化を起きているということを、否定する根拠は見つかっていない」と言うシンプルな考えでした。
振り返ってみると、僕が江守さんにお会いしてから随分経ちますよね。東京環境会議注1は2007年だったかな、ageHaというクラブ。

江守:はい。STUDIO COAST。

小林:一緒に登壇してもらったりして。もう15年ほど前です。今もステキなミドルエイジ、当事は環境問題の貴公子みたいでしたけれども(笑)。
このあいだ、枝廣さんとすごくいい対談ができましたが、枝廣さんと江守さんが、なんと武田邦彦さん注2と本も出されていますよね。

江守:本を出しましたね。

温暖化懐疑論者の武田さんと枝廣さん/江守さんという異色の取り合わせ。(技術評論社・刊)

小林:いろんな形で、反対の意見に対しても向き合ってこられて。今日はシビアな部分も含めて、これからの未来に対して江守さんが思われていることが一番聞きたいことですけれども、まず振り返ってみると?

江守:振り返ると、基本的には、大きな流れとしては、自分が正しいと思っていたことが正しかった、かつ、それが社会的にも主流になってきたというか。アメリカなどではまだ懐疑論が政治的な勢力として強くて、分断されていますが。日本では、基本的にはそういうことはなくて。もちろん、根強くやっている人たちはいるんだけれども、世の中の主流の考えとして、気候変動問題というのは当然大変で、対処しなくてはいけないというところまでは一致するようになっているので。その意味においては、正しい側に居続けてよかったなという感じです。
ただ、日本の懐疑論の歴史を、20年弱の歴史ですけれども自分なりに見ると推移があって。特に2006~8年ぐらい。2006年に『不都合な真実』が日本でも出て、2007年にアル・ゴアがノーベル平和賞をIPCC注3とともに取って、2008年に洞爺湖サミットですけど。そのころが、僕は「第一次温暖化ブーム」と呼んでいるんですけど、日本で地球温暖化という問題が多くの人の意識に上がった時期であって、かつそれに呼応するような形で懐疑論もすごく盛り上がった。武田邦彦さんの本もすごく売れた時期です。
その後にリーマンショックが来て、温暖化対策が盛り下がってきて、2011年に東日本大震災があって、福島第一原発事故があって、温暖化どころではなくなって、火力発電所が増えて、民主党政権が終わって。
国際的には、徐々にパリ協定注4に向けて盛り返し、パリ協定ができて、世界のアジェンダとして気候変動が完全に復活して今に至る形と思います。
改めて考えると、日本の温暖化懐疑論というのは3種類の勢力がいる。一つは経済的な保守というか、大企業、特に製造業などの産業勢力寄りで、経済に規制がかかることを反対して反発してくるような人たち。二つ目は、3.11以降に増えた脱原発派の人たちの中に、温暖化の科学を原発推進の口実だと認識して提起してくる人たちがかなり目立つ時期がありました。3つ目は、単にあまのじゃくな人たちというか。陰謀論好きだったり、別に温暖化、ホントでもウソでもどっちでもいいんだけど、「ウソだ」と言って騒いでいるだけの人たち。

小林:騒ぐ人もいるけれど、基本的には誰かが何か正当なことを言ってるのを、まず疑ってかかってみる、という姿勢の人もいるんですよね。

江守:そうですね。権力に対する不信みたいなものが世の中にあふれているので、それを反映しているのかもしれないですけれども。

小林:ここはちょっと難しいところですね。そうなると、懐疑主義や相対主義になってしまい、「この考えを支持する」と言うことができなくなるのではないかという。日本は特に、大変な戦後を生きていましたから、その大きな反省も含めて、「体制や思想に対して疑ってかかれ」さらに言えば「正解を求めるな」と言う姿勢があると思う。そういう姿勢と地球環境のことは想像力も含めて僕らのこととして考えていくというのが、ちょっとつながらないところがあるなというのも思っていました。
2番目の原発の問題、放射能のほうがよっぽど問題だというのは、目の付けどころが明らかに偏っているなと思っていました。

江守:実際、ある種の専門家で、脱原発派の支持を得ている人が、気候の科学のことは残念ながらあまり詳しくなかったせいか、懐疑論的なことをおっしゃる方がいらしたんです。

小林:僕の知っている震災前からリベラルな活動をやっていたような方でも、エネルギーのことにはあまり関心がなかったそうですけど、震災の後に反原発を訴えられて、「温暖化なんて、ウソばかり言っています、石炭ガンガン燃やせばいいんですよ」と。これが、福島の事故の後、地球温暖化問題が日本の中で玉虫色になっていった象徴的なことでした。
その間海外で環境意識が進んでいったのは、ヨーロッパでの気候変動への危機感が肌で感じられるようになってきたということなんですかね。

江守:そうですね。日本は昔から洪水など災害が多いけど、ヨーロッパは今までなかったような災害が来る感覚が、日本より強いと思います。民主主義的に市民がそういうことに関心を持っている、そして発言する、それを社会がちゃんと受け止めるという仕組みが日本にはほとんど見られなくて。ドイツやイギリスやフランスとかにはそういう仕組みがあると思います。

小林:おそらく福島の事故で、日本では玉虫色になってしまったけれど、エネルギーのことをさらに考えて、サステナビリティ、再生エネルギーということに対しての関心が高まっていったこともあるのでしょうね。

江守:ドイツは、日本の福島事故を見て倫理委員会を立ち上げて、脱原発を志したわけですから。

小林:そして現在、ヨーロッパなどからの影響もあって日本でも、SDGs的にいろんな問題がつながっている、弱者との循環の必要性を含めて、みんながだんだんと意識するようになってきたように思えます。

江守:僕は二つの流れがあるような気がしていて。今のアメリカ大統領選の民主党の候補者がバイデン候補になりましたけれども、少し前はバーニー・サンダース注5が善戦していたわけです。バイデンとサンダースに象徴されるような二つの流れが、気候変動をどう解決するかという二つの考え方と重なる気がします。
僕は、自分自身はどちらかと言うとバイデンに近いんです。サンダース的な資本主義をつくり直して新しい社会システムにして、それで気候変動を解決しましょうというのは、考え方としては素晴らしいんだけれども、あと30年でCO2の排出をゼロにしないといけないので、それ可能にするために、今の経済システムの中で急ぐことを考えていかないといけないような気がします。僕自身は、そういう発想で考えることのほうが多いです。もっと言えば、儲けるためには再エネだということでいいから、どんどん化石燃料から再エネにシフトしていくという流れを利用しないと間に合わないということです。

若者を中心に支持を集めたバーニー・サンダース(※写真は『バーニー・サンダース自伝』大月書店・刊)

どちらかというとバイデン派
起こり得ると言っていたことが現実に起こる怖さの中で

小林:これまで地球温暖化を専門で見てこられた江守さんが「サンダースよりバイデンだ」と言うのはすごく象徴的な気がします。2030年までにあと0.5℃上がるとどうなるか分からない、地球環境は後戻りできなくなるとも言われている。これは間違いないと言われています。
そういう時間のことを考えたら、現実的な視点でベターな方向に変えていく。もしくは、利潤追究するという流れのシフトをサステナブルな方向に、ベターなシフトに変えていくということが必要だと言うことですよね。

江守:そうですね。

小林:本当は、人間はもっと自然の環境を良くしていける存在だという。そういう生き方もできるんだというのもあるけれど、現実問題、僕たちが環境に全く負荷をかけずに生きていられるかと言うと、とてもそうとは言えない。
例えば、車で移動するということがあります。タイヤは道路を走行する際、摩擦により合成ゴムの破片をまき散らす。合成ゴムは石油を原料とするもので、その破片は雨が降ると道路から川を経て海へと流れ込む。海とマイクロプラスチックのことを考えて悩んでいても、車の移動を辞めると言う事は到底できない訳です。畜産と温暖化の問題と同様か、多分それ以上にあまり表に出てこない類の問題かもしれません。
でもそこで思考停止するよりも経済システムの中でサステナブルにシフトできることからやっていく、江守さんやバイデンのような折衷というか、ある種の妥協が必要だと思うという考え方に、共感できるところはあります。そんなに時間に猶予は無いと思っているからです。

江守:十数年前は、僕自身も予測の世界の中、コンピュータの中だけで、気温はこういうふうに上がるよなと、雨はこういうふうに増えるよなと、グラフを見ていただけだったんですけど。実際起こっていることは、温暖化の傾向に重なってランダムノイズが乗っているので、それが重なったものを見ていたわけですけれども。

小林:ランダムノイズって何ですか。

江守:天気は日々変動していますけど、同じように気候も年々、不規則に変動していて。気圧の分布も、海の水温の分布も、大気も海も、グニャグニャと不規則に動くものだから、毎年違うわけです。年によって気圧の特徴が違って、暑い年も来れば寒い年も来れば、上がったり下がったり、基本的にはするわけです。だけど、勝手に変動する振れ幅がある中で、平均的には徐々に上がっているということが起きているわけです。
大雨なんかもそうで。今年の梅雨前線にしても、去年の台風19号とかにしても、たまたまそういう気圧のパターンが来たので、日本に洪水をもたらしているわけですけれども、来年はもしかしたら来ないかもしれない。少なくとも同じところに毎年必ず来るわけではない。ですけど、長期的な傾向としては増えていったのです。経験する回数はだんだん上がっていく。
振り返って見ると、それが実際どういう形で起きたのかというのを、ここ数年、「ほら、こういう形なんだよ」と言われてきたような感じです。2017年ぐらいまで溯って考えても、17年は九州北部豪雨があって、2018年西日本豪雨があって岡山とか大洪水になって。台風21号で関西空港が浸水して、去年が台風15号で千葉が大停電になって、19号で東日本各地が浸水して、今年また梅雨前線の大雨なので、熊本はじめいっぱい被害が出て。
ここまで毎年来なくてもいいだろうという感じがするんだけど。来るというのはこういうことなんだなというのを見せつけられているようなことが、ここ数年起きていると思います。

小林:江守さんのこの話はリアリティがありすぎて怖いです。これから、例えば海水温が上昇するということで、永久凍土が解けていくことでメタンガスが噴き出すこともすでに起こりだしているという話もありますけれども。それによってまた新たなウイルスが僕らに近い自然界に戻ってくるという話すらありますけれども。これも、江守さんも同様に感じているところですか?

江守:そうですね。ウイルスの問題は、僕自身は詳しくなかったんですけれども。今回コロナの件でも割と発言している同僚の生物学者の五箇さんという人が研究所にいるんですけど。昔、彼と「気候変動が進んで、生態系で人間に一番怖いのは何かね」という話をしていたら、「未知のウイルスが出てくることじゃないか」と当事から言っていたんです。
生態系をいろんな形でかく乱をすることによって、自然と共生していたウイルスが人間社会に入ってくるリスクは、これからも増えていくと言われていますし、コロナが収束したと思ったら、また次がいつ来るか分からないということは、このままだとリスクとしてはその通りだろうなと、今のところ理解しています。
地球環境もこの先どうなるかわからないところはありますが、南極の氷の流出というのは、一部では加速していると最近言われてきましたし、アマゾンの熱帯雨林が枯れるのが止まらなくなるダイバック(dieback)と呼ばれる現象があるんですけれども、それは、事によるともう10年、20年くらいで始まってしまうんじゃないかと言う学者がいますし。とにかく「将来こんなことが起こり得るよ」と昔言っていたことが、現実にだんだん近づいているという怖さはあります。

気温上昇が避けられないなら、それに適応して地球で生きていく、という考え方。

小林:海面上昇ということに関しては、どういうふうに考えられていますか。

江守:海面上昇は、海水の熱膨脹というのは、気温が上がるほどコンスタントに起きていくんです。そこに南極・グリーンランド・その他の大陸の氷が解けたのがどれだけ加わっていくかという話ですけれども、特に南極の氷が減るのがどれくらい本格的に加速するかというのが一つ焦点であって、かつまだよく分かっていないところで。それがすごく加速してしまうと、今世紀中に1メートルくらいのことが言われています。2メートルくらい上がってもおかしくないという論文はありますが、多くの予測だと、2100年までに最大1メートルくらいです。

年々氷が溶け出していくグリーンランドの集落

小林:でも、バングラデシュとかでは、海岸がどんどん浸蝕されている。アメリカのどこかでもありましたけど。

江守:そうです。しかも高潮が来ますから。

小林:高潮はいろんな所に来ると思いますけど、日本はそこまで海岸が浸食されているという感じですか。

江守:海岸の浸食は徐々に始まっているんじゃないですか。淡水に海水が混ざるようになってきたり。そういうことは日本でも始まっているんじゃないかと思います。

小林:それは海水温が上がったからということ?

江守:いや、海面水位自体が、世界平均だと20センチくらい上がっているんです。これも変動が重なっているので、日本の沿岸のある所で見ると、そんなにはっきり上がっているように見えないんですけれども、世界全体で平均すると、はっきりとジワジワ上がっているということです。年間2、3ミリ。今、3ミリ、4ミリくらいですか。

小林:正直、江守さんは、CO2の排出を人類が団結して食い止めていければいいけれども、やり切れないまま、30年までに0.5℃上昇、それ以上に上昇してというふうになっていく未来に対して、悲観的なイメージを持っています?あまり考えないようにしているとか(笑)。

江守:温度が上がるのが避けられなければ、それに適応していくしかない、その地球で生きていくしかないということだと思うんですけれども。
もう一つの考え方としては、昔から話としてはあるんですけれども、例えば太陽光を遮って、無理やり地球を冷やすとか。そういう議論がより現実的になされるようになってきています。そういう研究をすべきだと、アメリカで大きな研究が立ち上がったりということが起きています。

小林:太陽光を遮るというのは、寒い日がいっぱい出てくるんですか。

江守:年中、ちょっとだけ薄暗くなる感じです。

小林:10パーセントとか5パーセントとか割合を減らしていくということですか。

江守:はい。大気の成層圏という高い所に微粒子をまいて、日射をちょっとだけはね返すんです。大気汚染のすごい所とか、空が薄暗いじゃないですか。毎日ああいう感じになるという。

小林:ちょっと分かるような気がします。ガスとは違うもので遮られるわけですね。

江守:そうです。

小林:ぼんやりした状態になる。

江守:ちょっとぼんやりする。そういうことをしてでも地球を冷やすべきだ、ということになるかもしれないじゃないか、だからそういう研究が必要だ、という議論はずっとやっています。

小林:そういう議論が起こっている時代なんですね。

江守:本当にやるかは別ですけど。

日本では気候変動などに発言するようなセレブリティはいないのですか?

小林:ap bankを始めた頃から、温暖化の原因に別の大きな理由が見つかったとしても、それでいいじゃないかと。それはそれで。
前の世紀に起こった環境破壊と言うのは、急激な経済発展とともに、爆発的に消費が増えて大量生産・消費・廃棄が起こったことが大きな理由だと思いますが、それは大航海時代から資源などを奪うため、それぞれの地域での営みに、強国が介入していったという歴史とつながっています。そこでいろんな歪みが生まれて、それがBlack Lives Matterになり、今の香港・中国の問題にも影を落としていますよね。
地球の気候変動、気候危機の問題は国境を越えています。SDGsでも、みんながそういうことに感じるように近づきつつあると思います。すべてのことが複雑で難しいかもしれない。でも同時に、喜びもそこに潜んでいるという。全体としてのイメージを考えて、利己的な満足もそことつながっていくという考えを持った時代になっていく。平和というのが1番大きなテーマだと思いますが、環境問題の解決と言うのはそこにつながるものだと思います。そうしていくという課題を持っていると思っています。

江守:僕よりも若い人がどんどんそうなってくれていると思います。ミレニアル世代、Z世代みたいな話で、モノより「いいね」が欲しいという感覚も関係してると思います。ただ新たに承認欲求と言うような問題も出てきているかも知れません。

小林:若い世代の話も出たけれど、そもそも江守さんは、なぜ科学を志し、どうして地球の環境ということに目を向けていったのか聞いてみたいのですが。

江守:これがきっかけだったなと思ったのは、チェルノブイリの原発事故です。僕が高校2年生になったくらいの時ですけど、チェルノブイリ原発自体は、何が起こったのかあまりよく分かってなかったんですけど、「放射能が飛んできているらしいぞ」みたいなことを言っていて。原発事故だったらしい。日本の原発は安全かどうかという論争が、日本でも始まったわけです。それでエネルギーとか環境とかいう話に興味を持ったということがあります。そして大学でいろいろ勉強しているうちに、地球温暖化という問題があるというのが分かって。

小林:サステナビリティに関して日本の若い人たち、ちょっとぼんやりしているところがあるでしょう。どちらについていいのか。環境と経済は勿論、米中というような、単純な二項対立ではなくて複雑な問題の中に、どちらにも付き切れず、思考停止になっている。もちろん、一部の若い人たちの意識は高くなっているのは分かるんですけど。

江守:活動している子とかを見ると、日本のシステムに、このままじゃまずいと思うとか、危機感を持っている人は結構多いです。同調圧力の強い社会自体が気持ち悪いみたいな。その中で、ある種の生きづらさみたいなものを、社会を変えるエネルギーにぶつけているような印象もあります。

小林:何とかしなくちゃいけないところですね。コロナの今の時代でも、「みんな我慢しているんだから」という思いから出てくる同調圧力が、それに留まらない人たちを批判していく、その結果、誹謗中傷とか、強いストレスになっていますよね。もう、みんなが感じてることです。

江守:僕から小林さんに伺ってみたいことが一つあるんですけど。日本のセレブリティというか著名人の方は、小林さんみたいに気候変動に本質的な関心を持っている方は、ほかにいらっしゃらないんですか。坂本龍一さんとかはそうなのでしょうけど。
例えば、アメリカだったら(レオナルド・)ディカプリオとか、最近だとビリー・アイリッシュだとか、声を上げている著名人がいるじゃないですか。

環境やボディ・シェイミングなど様々な問題提起を発信するビリー・アイリッシュ(写真はアルバム『When We All Fall Asleep,Where Do We Go?』)

小林:まず、僕は有名人じゃないです(笑)。
でも、まだ二十歳前のビリー・アイリッシュのことを、江守さんがキャッチアップしているというくらい、アメリカは開かれているんです。日本では、ビリー・アイリッシュのような存在は考えられないとうか、出てこないですね。明らかに土壌が違うと思います。著名な人たちも、音楽業界なり芸能界なり、出版業界とか、いろいろ絡んでいると思います。多分明確にどう絡んでいるかどうかは分からないくらい、すごく曖昧なんだけど、さっき言った同調圧力と共にプレッシャーというものが、そういう発言をなかなか許さないというか。許さないわけでもないとしても、続かないですね。

江守:このあいだ、検察庁法注6に抗議しますと、いろんな有名人がツイートしましたよね。あれはなぜ起こって、ああいうことは気候変動では起きないんですか。

小林:検察のことは、分かりやすい正義のように見えたんじゃないか、とは思います。だけど、あれにはまた難しい問題があって。その話はまた後日したいけど、気候変動の話に戻して。
なぜ気候変動の問題にセレブリティが発言しないかと言うと、大きくは、経済の保守ということ、既得権益のところと結び付いているということ。所属しているプロダクションとか、スポンサーと、つながっているということも大きいと思います。
でもそれよりも大きな問題があって、例えば温暖化を脅威と感じている派と懐疑している派と、メディアは両方、ポンと二つ並べたりするでしょう、ちょっと興味を引くというレベルで平たく並べるみたいな。確かに環境問題の中でも気候変動と言うのはすごく大きな視野の問題であってとらえどころを感じにくいっていうのはあると思います。それをちゃんと情報として扱うためには、僕らがもう少し、他者との関わりとか、哲学とか倫理みたいなところまで、そういうことに対する学びが必要になってきているのではないかと思います。
まあ、これくらいで勘弁してください(笑)。

江守:ありがとうございます(笑)。

注1)東京環境会議
ap bankの主催で2007年3月、三日間にわたり東京STUDIO COAST/ageHaにて行われたクラブイベント。ミュージシャンやDJのみならず多くのクリエイターも参加した。正式名称は『AP BANG! 東京環境会議TOKYO CREATORS MEETING』。

注2)武田邦彦
中部大学総合工学研究所特任教授。CX系『ホンマでっか!?TV』などでもおなじみの工学者。かねてより地球温暖化には懐疑的で、リサイクルにも反対の立場に立つ。

注3)IPCC
地球温暖化についての科学的な評価のための政府間機構。『気候変動に関する政府間パネル=略称:IPCC』。世界中の研究者を集めて、1990年以降、5~7年に一度、地球温暖化の科学の評価報告書を発表している。これが国連の交渉の際に科学的な共通認識として参照される。

注4)パリ協定
最大のCO2排出国の中国とアメリカが同時に批准したことで、議長国フランスのファビウス外相が「歴史的な転換点」とまで発言した気候変動に関する国際的枠組み。産業革命前から世界の平均気温上昇を2度未満に抑えつつ1.5度未満を目指すとされたが、2019年にアメリカはトランプ政権によって正式に離脱を表明した。

注5)バーニー・サンダース
アメリカ合衆国の政治家。2016年の大統領選挙に民主党から出馬を表明し注目を集めた。自ら”民主社会主義者”を標榜し、社会保障制度やメディケアとともに気候変動に関してもグリーン・ニューディール法案への支持を表明するなどリベラルなスタンスで知られる。

注6)検察庁法
2020年5月、国家公務員や検察官の定年を65歳に引き上げるための法案審議が衆議院内閣委員界で行われたが、そこに含まれている特例によって、政権は恣意的な差配が可能になると批判の声が高まった。Twitter上では著名人なども含めて「#検察庁法改正案に抗議します」というツイートが多くみられた。

江守さんとの対談を終えて

最後はもっと言えることもあるんですが、またいずれと言う感じで、ちょっと尻切れトンボな感じで終わってしまいました。すいません(笑)。
しかし、清濁併せ持ってこの世は回っているという考えと、もうサステナビリティの方向に切り替えていくことに躊躇は必要ないと言う考えは矛盾しないと言う所まで来ているんだと、この対談を終えた後にふと思いました。

小林 武史

PROFILE江守 正多

1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に入所。2018年より地球環境研究センター 副センター長。社会対話・協働推進オフィス(Twitter @taiwa_kankyo)代表。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。
著書『異常気象と人類の選択』(角川マガジンズ)、『地球温暖化の予測は「正しい」か?』(化学同人)、共著書に『地球温暖化はどれくらい「怖い」か?』『温暖化論のホンネ』(技術評論社)など。