A sense of Rita Dialogue with TAKESHI KOBAYASHI

vol.08 辻井 隆行 さん

小林武史が各界のゲストを招いてさまざまなテーマで語り合う対談連載。
今回のゲストは元パタゴニア日本支社長の辻井隆行さん。
自然と寄り添ってきた活動と環境に対する思いなどを語っていただきました。

全ての行動がミッションに繋がっているか

小林:聞きたいことはいろいろあるんですが、簡単に言うと今はどんな感じですか。

辻井:やっぱりパタゴニアという会社に20年いたので、根っこの部分は、地球環境のためにというか、サステナビリティのためにできることをやりたい。ただ、個人になったので、自分の出来る範囲のことに少しずつ取り組んでいます。一つは、自然エネルギーの企業の外部アドバイザーみたいな形で、ビジョンとか戦略づくりのお手伝いをしているということがあります。ほとんどオンラインでやっていますけれど。

小林:パタゴニアという企業はすごくユニークな企業でしょう。
1970年にイヴォン・シュイナードさんがベンチャーでアウトドア用品の直営店をオープンし、後に環境保護助成プログラムというのをスタートさせ、91年には、日本では売上高の1パーセントか税引き前利益の10パーセント、どちらか多いほうをプログラムとして使う。僕がこの話を知ったのはだいぶ後ですが、経営のあり方として憧れに近いものを持ちました。
辻井さんとは、環境保護活動とか、市民運動に近いようなところで出会っていくわけです。パタゴニアは社としても方針や経営の中にそういうことが組み込まれて、すごいな、と。日本の企業で簡単にはあり得ないような話だと、思うんですけれども。

日本でも人気のアウトドアブランド『patagonia』

辻井:小林さんがおっしゃったのはパタゴニアの存在意義ということだと思うんです。パタゴニアが存在することで、環境問題を解決することに貢献したいと。反対に、あってもなくても社会とか世の中が何も変わらないんだったら、存在意義がないということになりますもんね。そういう崇高な理念を掲げていた一方で、2009年に日本支社長になって、スタッフに「正しいことをして下さい」という話だけをし続けたら、売上げが落ちるという経験もしました。

小林:いったん落ちたんですか。

辻井:はい、そうなんです。その時に、売上げって何だろうということを考えました。よく売上は、お客様の投票だと言いますが、投票って、商品にだけ投票するわけじゃなくて、いろんなことを全部見て投票するわけですよね。それを一つ一つ丁寧に考えていきました。で、僕なりに辿り着いた結論というのは、やっぱり、「ビジネスを使って環境問題を解決する」というミッションに立ち返ることでした。正しさをスタッフ一人ひとりに丸投げするのではなく、間接的であったとしても全ての行動がミッションに繋がっているか。それをみんなで考えるようになったことで組織全体が同じ方向を見るようになり、結果として売上も回復しました。
同時に、環境問題はパタゴニア1社で解決できるわけではないので、日本の環境問題という文脈で、パタゴニアという生き物がポンと川に入ると流れが変わる、みたいなインパクトを、抽象的ですけど、そういう存在になれるといいなと思って取り組みだしました。

小林:でも、イヴォンさん自体はそれまでの川の流れに対してかなり異質な存在として川に入っていった人でしょう。

辻井:そうですね。ただ、アメリカは特にそうですが、西欧の社会は、自分の考えを意志表示してなんぼという世界じゃないですか。イヴォンだけが特異かというと、そんなことはなくて、学生とか、環境活動家とか、一次産業の人とか、同じように考えて行動を起こす人たちすは大勢いますが、ビジネスを使って本気で取り組んできたところは、すごくユニークだと思います。

小林:辻井さんがパタゴニアに入るきっかけは?

辻井:入る前は、とにかく自然の中で過ごしながら生きるにはどうしたらいいか、ということしか考えてなかったので、夏は海でシーカヤックのガイドをやって、冬はスキー場で怪我した人を運ぶパトロールという仕事をしていたわけですけど、自分が好きなことを仕事にするのではなく、僕の場合はもっと自由でいたいなと思うようになったんです。そんな時に、月給はくれると言うし、休みはいくらでも取れると言われて、、、笑。何より、アウトドアスポーツに真剣に向き合っているスタッフが多いことに惹かれました。そんなことで、僕、イヴォンのこと知らないで会社に入ったんです。

小林:イヴォンの存在を?

辻井:はい。最初に初めてアメリカ本社に出張した時に、それもバンクーバー島という所にシーカヤックしに行った帰りに「ちょっと寄れ」と言われて、渋々寄ったら会社のパーティがあって。あのおじいちゃん、誰だろうなと思ったら「創業者だ」と言われて。それぐらい、パタゴニアの環境とかの活動よりも、アウトドアスポーツのほうにすごく意識が寄っていたんです。
実際、数年前までは、日本でパタゴニアを選んでくれている人たちも、どちらかと言うと街で着る方のほうが多いので、ファッションとしてというのがマジョリティで、アウトドアスポーツの方がいて、環境というのはほんのちょっとという感じの印象でした。でもここ最近、10代、高校生、大学生の、いわゆるZ世代が、環境問題に真剣に取り組んでいる会社だということでパタゴニアを知ってくれるというケースも増えました。

小林:つまり辻井さんが社長になって変えたということ?

辻井:僕が変えたということではないですが、僕の意識も変わったし、一緒になってやってくれた社員の意識が変わっていったのも事実です。積極的にリードしてくれる人も出てきたり。それと大きかったのは外的要因です。資本主義がかなり行き詰まってきて、気候変動の問題も顕著になってきたり、環境問題について考えざるを得ないという人たちが、そういう意識を持った企業はないだろうかと探し出したり、応援してくれたり、双方向だと思います。

終わりなき経済成長を求めたり便利さを求めると、
どこかにしわ寄せが行く

小林:具体的には、辻井さんは何をやってきたという感じになるんですか。

辻井:支社長就任時に経営経験のない僕が頼りにしたものの一つが、イヴォンが書いた『社員をサーフィンに行かせよう』という経営哲学の本です。それを何度も見直したんですが、当時の僕には、正しいことをすれば結果はついてくるぞ、という感じにしか読めなかったんです。だから、先ほども触れた通り、社員のみんなに「とにかく自分が正しいと思うことをやってください」ということだけを言い続けたら、売上げが落ちたんです。それはみんなが悪いんじゃなくて、僕が正しさというのを社員に丸投げしていたからだと思うんです。
でも、正しさって危ないじゃないですか。主観が入りこむ余地が大きいから、人の数ほど正しさがあったりしますよね。パタゴニアで働く上での正しさって何だろうと考えたら、それは、パタゴニアの存在理由、「環境問題を、ビジネスを使って解決する」というミッションに対して整合性が取れているかどうかということだと、1年かかってようやく気がついたんです。
で、ミッションに向き合ってみると、そこには存在意義は書いてあるんですけど、何を、いつ、どんなふうに実現すれば良いのかは書いてない。社員全員がミッションを読んだとしても、イメージするスピード感やアプローチはそれぞれ違う。企業なので当然、環境活動だけやっているわけではないですから、一人一人がきちんと持ち場のことに取り組んで、事業の健全性が保つことも大切です。それがあって、はじめて社員がより充実感を持って働く環境を整えることができるようになるし、社員が前向きで、幸せを実感していることで、初めてポジティブなエネルギーがお客様に伝わるようになる。
ビジネスを使って環境問題を解決するというお題がバーンと来ると、自分の仕事はほっぽりだしてでも気候マーチに行ったほうがいいんだと考える人もいるかもしれないし、逆に、外に行かないで自分の持ち場だけをこなしていればいいと考える人もいるかもしれない。両極端な例えですけど。だから、一人ひとりが、いつまでにどういうルートで何をしたらいいかということを考えるための地図みたいなものが、ミッションの次に必要でした。いつまでにこういう状態をつくりたいということを、網羅的に書いて、そこに行くために、選択と集中でこの三つに向き合って取り組みましょうと、みんなで話し合って決めて、そこうした地図を参考にして、あとは自分の強みや個性を考えてやってください、みたいなことを延々とやっていました、10年間。

小林:言っていたのはビジョンというやつですね。

辻井:そうですね。ビジョンと戦略と言うんですかね。

小林:ビジョンの下に戦略が出てくるという感じ?

辻井:そうですね。下なのか。

小林:一緒なのかもしれない。

辻井:戦略は方法論で、ビジョンは未来の姿だと捉えていました。

小林:もう一つありましたっけ。

辻井:あとは日々のアクションというか。戦術、Tacticsと言うんですけど。それは、どんなイベントを、いつどんなオーディエンスを呼んでやるか、みたいな。でもそういうアクションというのは、コロナ渦にのような外的要因で変えなきゃいけなくなります。それを変える拠り所になるのが戦略とかビジョン。ビジョンと戦略には、例えば、あの頂(いただき)に、何月何日までに、どういう仲間と一緒に、どんな戦略を使って登っている、ということは書いてあるので、あとは状況に応じて最適なアクションをとっていけば良い訳です。

小林:自然の中で遊ぶのを仕事にしていたような辻井さんが、その経営術にどうやってたどり着きました?

辻井:パタゴニアに入って6、7年は、いつ休んでどこに行きたい、みたいなことしか考えてなくて。明日のミーティングどうやって抜け出そうかな、みたいな(笑)。日本支社で初となる45日休暇というのを、10年間で2回も取ったりもしました。これは言い訳ですが、誰かがやらないと駄目だと(笑)。

小林:45日休暇?すごい。

辻井:最初は、2003年に、仲間と共にグリーンランドという所に行きました。フィヨルドという氷河を削った海をシーカヤックで漕いで、氷河にキャンプして山を登って滑る、みたいなのをやったんです。その後、2007年にも、社名にもなったパタゴニアという場所に行って、同じことをやりました。フエゴ島のダーウィン山脈という、南極にも近い地域で。

雄大なパタゴニアの風景(写真提供:辻井隆行さん)

辻井:アウトドアスポーツを通じて感じたことはたくさんあるんですが、一つは、よく言われるように、人間はちっぽけで非力だなということ。それは当然そうですけど、それ以外に思ったことがありました。
グリーンランドに行った時に、ヨーロッパの工業排出が主な原因で、1970年代中旬からの25年で海洋哺乳類から検出された水銀が2倍から4倍にも増えていることを知りました。グリーンランドって、氷と岩と雪しかないので、先住民はビタミンを摂ったりするのにアザラシを食べたりクジラを食べたりするんわけですが、彼らにとっては死活問題ですよね。もう一つは、グリーンランドに行く前に、氷河の状態とかを昔の本とかで調べて行ったんですけど、現地に行ってみたら、氷河が海まで伸びているはずの場所で氷がなかったりするわけです。たった数十年前の写真との違いで、温暖化の影響も実感する。
そういう経験をするうちに、都会の人が「もっともっと」という終わりなき経済成長を求めたり、便利さを求めると、どこかにしわ寄せが行くんだなと気がつきました。最終的には、そういうことは自分たちに返ってくるだろうことも。
休みばかり取ってそういうことやっているうちに、自分の中の関心事と会社の関心事の輪っかが、より大きく重なっていったんです。

小林:環境のことを知るというか、自然と自分のつながりが、その時に、グリーンランドに行っている見ている目の前のことだけじゃなくて、目の前のことは、いろんな要因とつながっているみたいな感覚。そういうことを与えてくれるのが自然のすごさだったりするじゃないですか。

辻井:ほんと、そうだと思います。

会社の軸足がきちんと気候変動に向いてないと
いい人材は獲得できない。
そういうところまで来ている

小林:そうやって、自然の中で楽しいということを優先している段階から、人間とのかかわりの中で、環境に破壊やダメージを与えているということも目の当たりにして考える段階に変化した。更にそこからどうしたらいいのかということを考えるということが、さっきのミッションやビジョンというようなことに繋がっていった、ということですか。

辻井:そういう気がします。イヴォンも、いろんな本で書いたり、講演で話をしているんですけど、アウトドアスポーツ中の状況判断と決断と、経営はすごく似ているところがあるんです。
例えば、「判断」と「決断」という言葉が、日本語だと両方とも「断」という漢字が付いているせいか、同じ意味で使われることが多いんです。「あの社長の判断は良かったね」とか。だけど英語にするとJudgementとDecisionなので、全然違うんです。判断、Judgementは、過去から今の瞬間までに起きたことを客観的にテーブルに載せて分析して、自分たちが今どういう状態に置かれているかを理解するというのが判断。なので、ここには主観が入る余地はまったくないんです、基本的には。それを受けてどうするかというが決断で、そこには、生き様とか哲学とかその人の考えとかが反映される。
僕ちが海でシーカヤックを漕いでいて、どうもルートを外れていて遭難しかけているぞとなったとします。その時、判断というのは、どこでルートを誤ったかとか、風向きどうだったかとか、体調はどうだったかとか、コンパスは壊れてないかとか、そういう材料を分析することです。その上で、「もう、諦めよう」となるのか、「生き延びるためにルートを外れた時点まで戻ってやり直そう」となるのか。それは決断です。でも、現状分析、つまり正しい判断をしないで、決断する人はいないですよね。
それは経営も同じで、「判断」がちゃんとできてないのに「とにかく、ここは頑張るんだ」みたいなことを言っても上手くいく可能性は低い。根性論はその典型です。逆に、「決断」しなきゃいけないのに、いつまでも「もうちょっと様子見ましょう」とか、「もっとデータ集めましょう」とかやっていると、タイミングを逃しちゃうかもしれませんよね。
そういう意味で、アウトドアで遊ぶことと、経営には共通点があるように思います。

小林:あとは、45日休暇を取ったという。(笑)

辻井:そうですね。それは後からのこじつけのようにも聞こえますが(笑)

小林:すごい。うらやましい。日本人としては切ないところもあるね。

辻井:確かに、日本に限らず、働くことは手段だったはずなのに、それが目的化して本当にやりたいことが出来ない、みたいなジレンマってありますよね。

小林:辻井さんと僕は、世代もちょっと違うし、違う歩み方をしているんだけど、サステナビリティということに、今、直面しています。環境活動というのがあるじゃない。僕らも、ダムの建設のことで、辻井さんから声を掛けてもらって、それに対しての問題をどういうふうにとらえていけばいいのかということを、僕らは市民運動のような形でかかわらせてもらって今も続いているんですけれども。パタゴニアという会社は、相当尖った部分も含めて、いろいろ環境活動に関して、経営の中に組み込んできているという、その姿勢に関してお聞きしたいんです。そういうものの必要性だとか、ある程度過激なほうがいいと思っているのかとか、そのあたり。

辻井:表現の仕方とか、何をやるかという具体的な話はさておいて、サステナビリティが、会社の利益が出た時に余力でやるという位置づけでは、企業自体が持続できないというところまで来ているのは間違いないと思います。

小林:例えばCSR的なことだけではダメだということですね。

辻井:そうですね。さっきの判断と決断になぞらえてお話しすると、経営方針を決めようとすれば、今、自分たちが置かれた状況を知ることが大事ですよね。ビジネスはよく「ヒト・カネ・モノ」という三つがないと回らないよねと言われますけど、お金について言えば、ここ10年の間に、投資や銀行や保険に関する責任原則というのが次々と国連で定められて、環境や社会を壊すような企業にはお金が回らないようになってきている。資源の枯渇や価格高騰も避けられない。さらに、優秀な人材を確保しようとしたら、将来の社員になる今の学生たちにとって、環境問題に対して真剣に取り組んでいない企業は魅力的に映らなくなってきています。例えば、30年も前から指摘されている気候変動に対して真剣に向き合はないばかりか、問題を悪化させたきた大人に失望しているZ世代の台頭は、象徴的です。そういう人たちが将来の顧客になるし、自分たちのスタッフにもなるわけなので、会社の軸足がきちんとそこを向いてないと、いい人材は獲得できない。そういうところまで来ているだろうなと思うんです。

温室効果ガスの各国の発生量推移(出展:国立環境研究所ホームページより)

最近の事例だと、みずほ銀行の株主総会で、気候変動の原因である二酸化炭素を大量に排出する石炭火力事業に多額の投資をしているということに対して、株主の一人である環境団体の職員が反対の意思を示したんです。そしたら、なんと70パーセント以上の株主が「みずほは気候変動対策を本気でやるべきだ」と言う趣旨に賛同したそうです。
環境とビジネスは両輪であるべきだと言われることがありますが、健全な環境はビジネスの土台であると考えるべきです。良い基礎がないと良い家が建たないのと一緒です。

小林:みずほとか株を公開していても、そういう時代になってきている。

辻井:今は、化石燃料を販売して成長してきたシェル石油だって、「2050年にはCO2ゼロ」とホームページにドカンと書いてあります。

小林:プレオーガニックコットンというのをクルックで、ap bankも応援しながらやってきたんだけど。最近「ニーズとして、そういうことをひしひしと感じるようになった」と関係する商社の人たちも言いだしています。

辻井:いいことですよね。僕も、今も、ピンクのap bank fesのTシャツ持ってますよ。今日着てくればよかったけど、新しいTシャツもあまり買わないし、大事に着ています。

小林:パタゴニアって、化学繊維で作る衣類も回収をちゃんとしてくれているんですよね。

辻井:はい。化繊のリサイクルには2種類てあって、一つはマテリアルリサイクルと言います。単純に言えば、できるだけ細かく裁断して、再利用する方法です。もう一つは、ケミカルリサイクルと言って、化学的な処理をすることで、石油から生成したものと変わらないクオリティのものができるようになったんです。帝人さんのエコサークルと言えば、聞き覚えがあるかもしれません。パタゴニアで回収を始めたきっかけも、帝人さんとのパートナーシップでした。今は、例えば100枚のフリースを集めたら、96枚か97枚ぐらいの原材料に戻るんらしいんです。そういう技術革新もあって、今、パタゴニアで売っている化学繊維のものは、ほぼリサイクル素材です。

小林:石油由来の商品、できるだけ循環の輪の中に入っていれば、気持ちもだいぶ違いますね。

辻井:そうですね。産業革命の前と後で一番違うのは、人間が地下の資源を掘り出したということ。地下資源って、化石燃料もそうですが、できるまで数十万年とか100万年みたいな、膨大な時間がかかっているものが多い。昔の森の有機物が堆積して、何十万年かかってできたものを一瞬で燃やしたら、やっぱりサステナブルじゃない。サステナビリティの本質って、地球や自然が自分の力で回復できる速度に人間が合わせて必要な資源を使わせてもらうこと。資源を使わないで生きることはできないですから。

小林:あまり考えずに、地下からエネルギーをどんどん引っ張り出してきて、使い放題、消費・廃棄し放題でやってきた。そこにまた新たな自然とのつながりで、コロナという問題が出てきているじゃないですか。野生動物を口にするような仕組みを断つべきだとか、果ては、アジア人、日本人でもそうですけど、西洋医学は認めるものの「医食同源」の漢方を大事に感じる文化、それすら危ないのでは、それが原因ではないかという話も出てきています。僕らが、人間は自然の一部だという感覚は、東北の震災以降、強く感じていたところだけれども、コロナを背景として、距離が大事だという声も出てきているでしょう。自然との距離。
オンラインで済まされることも随分あるから。その辺のことを表面的に、合理的にとらえていくと、勘違いする方向も生まれてきそうです。

奪い合うことが経済と共に
すさまじい勢いで起こってきた反動として
僕らは新しい岐路に立っている。

辻井:僕がコロナで一番思ったのは、人間の分相応というか、身の丈というか、そういうことです。今回の新型コロナの原因には、いろんな説がありますけど、2つのことが影響していると考えることは大事だなと思っています。1つは気候変動で、もう1つが工業畜産です。気温が上昇することで、コウモリとか野豚のような野生生物もストレスを感じるようになってきている一方で、工業畜産の現場では、鶏とか豚とか牛とかを、一歩も動けないような狭い場所に閉じ込める。ホルモン注射と抗生剤を打って、酷い場合には、足も骨折して、目も見えなくなったりして。それでも肉だけは軟らかくて歯応えが良ければいい。そんな方法を推し進めれば、それは家畜だって免役力は下がるはずです。
先日聞いてびっくりしたんですが、今、地球上にいるライオンとかキリンとか象とか、いわゆる野生哺乳類の比率はたった4%だそうです。96パーセントが、人間と畜産動物出そうなんです。これも1970年代以降に激増したものの一つで、いくらなんでも増やし過ぎだと思うんです。だから、地球上の農地の3分の2は、牛の飼料となる大豆やトウモロコシを育てるために使われていて、農地が足りないからジャングルを燃やすなんてことが平気で行われている。そうなれば、本来人間社会とは隔離されていた場所との距離がどんどん近くなる。結局、「もっともっと」という考え方の行きつく先なんだと思います。モノとかお金とか、物理的なマテリアリズムだけで、「もっともっと」とやっていたら、これからも何か悪いものが返ってくるだろうなと。これを変えないと、第二、第三の疫病が間違いなく来るんじゃないですか。

小林:そうですね。昔の人間って、大昔から、そういうような知恵とか、勘とか、ほかの生き物と同様の軌跡を描いて進化してきた。そういう自然に対しての畏怖の念も含めて、さっき辻井さんが言っていた判断(Judgement)、決断(Decision)をやれていたんだと思うんです。自然って、当然ですけれども、生き物にやさしいことばかり与えてくれるものではないから。

辻井:そうですね。

小林:その中で、ちゃんとした判断、決断を僕らが持っていく力や余裕というか、そういうものだということを受け入れる姿勢みたいなものが必要になってきているんですよね。

辻井:そう思います。

小林:その上で、人間って、進化の中でほかの動物と違うところに入ってきて。個の自由を獲得している初めての種だとも言えると思う僕らは、いろんな動物を殺して命をいただいている。食物連鎖の頂点に立ってしまった人間が、家畜を増やして、どんどん、おいしさというものに変えていくという流れに、違う進化のことが始まりだしているというふうにも思うんです。
例えば代用肉の話。培養肉もあるけど、ソイミート。このあいだも、インポッシブルバーガーとか、インポッシブルミートとか、今年の始めにアメリカで食べてきたけど。遺伝子組み換えの問題もあるようですが、かなり美味しい。日本ではまだ安全性みたいなものがちゃんと調べ切れてないから、輸入はできてないみたいだけど。
いずれにしても、どんどん肉食が伸びていることと、環境問題が、森林伐採とか、つながってきています。いま僕らがしゃべっている瞬間でも、ものすごい数の家畜が殺されているわけでしょう。それを僕らは見ないように、感じないように、食肉文化を作って来ているけど、そういうことも変わっていくという。ある種のエシカルというか倫理観みたいなものと共に、進化していくことだと思うんだけれども。
今まで、奪い合うことがすさまじい勢いで、経済と共に起こってきた反動として、新しい岐路に僕らは立っていると思います。

辻井:ほんと、斎藤幸平さんじゃないですけど、今、僕たちは大分岐にいます。その分岐をどちらに進むかで未来が決まる。日本は特に、みんながやっているからということで動く文化ですよね。それが同調圧力という悪いほうに出る時もあるかもしれないですけど、みんながいいことをやって、「いいね、いいね」となったら、みんなやるか、みたいな、良い意味でも一体感もある。みんなが決断するための客観的なデータと分析が、わかりやすい形で手に入るところにいろんな形で広がっていけば、楽観的ではないですけど、伸び代はいっぱいあるんじゃないですか。

小林:希望も無いわけじゃない。今度は自然の中で話しましょう。

辻井:僕はテントでも大丈夫なので、ぜひ。

小林:あ、そうか。

辻井:野宿だけは得意なので。

小林:上級者だ。ありがとうございました。素敵なお話でした。

辻井:ありがとうございます。

対談を終えて

もっと若い時に北極とか南米とか一緒に旅行してみたかった人ですね。今からが絶対に遅いわけじゃないけれど、どちらかと言えば、これからはミッションとかビジョンとかタクティクスとかそんなことでお世話になったりアドバイスをもらったりする関係なんでしょうか。
いやいや、近場でもいいんで遊びにいきましょう。コロナがだいぶ落ち着いたころかな。

小林 武史

PROFILE辻井 隆行

元・パタゴニア日本支社長。1968年生。早稲田大学大学院社会学科学研究科(地球社会論)修士課程修了。99年、パートタイムスタッフとしてパタゴニア東京・渋谷ストアに勤務。2000年、正社員として入社。鎌倉ストア、マーケティング部門、卸売り部門を経て、2009年から2019年まで日本支社長。2019年秋、自分の器の限界を感じて日本支社長を退任。現在は、自然と親しむ生活を送りながら、企業やNPOのビジョン・戦略策定を手伝いつつ、#いしきをかえようの発起人の一人として市民による民主主義や未来のあり方を問い直す活動を続ける。2016年、日経ビジネス「次代を創る100人」に選出